2019.1.2 高校12期 第97回全国高校サッカー選手権大会2回戦

浜松開誠館 - 長崎総合科学大学附属 0-1

埼玉 大宮NACK5スタジアム

静岡新聞
浜松開誠館、長崎総合科学大付に0―1 全国高校サッカー選手権

 第97回全国高校サッカー選手権は2日、さいたま市のNACK5スタジアム大宮など各地で2回戦16試合を行い、静岡県代表で初出場の浜松開誠館は長崎総合科学大付に0―1で敗れた。県勢は4年連続で初戦で姿を消した。
 浜松開誠館は前半の好機を生かせず、後半23分に失点。終盤は攻撃の勢いを強めたが、1点が遠かった。
 2連覇を狙う前橋育英(群馬)は宇和島東(愛媛)を2−0で下し、3回戦に進んだ。
 前回大会準優勝の流通経大柏(千葉)は徳島市立に2−1で逆転勝ち。尚志(福島)は東福岡を2−0で破り、前回4強の矢板中央(栃木)は日章学園(宮崎)を2−1で退けた。帝京長岡(新潟)は旭川実(北海道)戦で19人ずつが蹴ったPK戦を17−16で制した。
 星稜(石川)は前回8強の明秀学園日立(茨城)に終了間際のゴールで1−0と競り勝ち、初出場の瀬戸内(広島)は東京都市大塩尻(長野)に1−0で勝った。

 ▽2回戦
 長崎総合科学大付 1(0―0 1―0)0 浜松開誠館
 ▽得点者【長】千葉

 【評】浜松開誠館は一瞬の隙を突かれ、長崎総合科学大付に屈した。
 序盤から球際で激しい攻防を繰り広げた。開誠館は徐々にボールを動かしながらペースをつかんだ。弓場のドリブル突破や市川の縦パスなどで好機を演出したが、得点に至らなかった。
 守備陣は相手のセットプレーを粘り強く耐えたが、後半23分に失点。終盤は前線の人数を増やしパワープレーで攻めたが、相手の堅守に阻まれた。

静岡新聞
浜松開誠館、前回8強と互角 全国高校サッカー選手権

浜松開誠館―長崎総合科学大付 前半、浜松開誠館の前田(中央)がシュートを放つ=NACK5スタジアム大宮
 浜松開誠館の足が一瞬止まった。後半23分。自陣深くで長崎総合科学大付の右サイドでのパスに対し、市川と前田の出足が遅れた。「どちらがいくか迷ってしまった」と前田。悠々とクロスを上げられ、痛恨の失点を喫した。
 ハードワークが売りの相手に対して一歩も引かなかった。激しいプレスにも冷静に対処。中盤の底に入った市川は「イメージ通り。(相手の)スピードは見えるレベルだった」と振り返る。前田も「うまくプレスをかわせた時は、開誠館らしいサッカーができた」と言う。「闘う、走る、粘る」のスローガンを体現し、初出場で前回8強の強豪と互角に渡り合った。だからこそ、一瞬だけ許した隙が悔やまれる。
 選手として清水商時代に全国制覇した青嶋監督は「私の力不足。『もっと努力しろ』と言われているようだった」と責任を一身に背負い、「結果が出ないと優秀な選手はそろわない。魅力ある地域、チームにしていかないといけない」と決意を新たにした。
 部の目標の「全国制覇」には遠く、県勢としても4年連続の初戦敗退。「来年もここに戻ってきてほしい」と後輩に託す山田主将。不完全燃焼のままでは終われない。

 ■華麗な連係実らず
 浜松開誠館が前半17分、華麗な連係プレーでスタンドを沸かせた。市川の縦パスを岡島がワンタッチでゴール前へ。前田が2列目から飛び出し、相手GKとの1対1をつくった。複数の選手が連動し、相手守備陣を手玉に取った完璧なパスワークだった。
 しかし、最後に仕留め損ねた。決定機を逃した前田は「あそこで決めていれば、結果が変わっていたかもしれない。本当に申し訳ない」と悔やんだ。
 見せ場はつくったが、シュート数は4本のみ。攻撃力不足を痛感させられた青嶋監督は「相手の守備を崩す力を付けて(全国に)戻ってきたい」と誓った。

サッカーマガジン編集部
【高校選手権・2回戦】試合巧者・長崎総科大附が初出場の浜松開誠館を退ける

■2019年1月2日 全国高校サッカー選手権2回戦(さいたま・NACK)
 浜松開誠館(静岡) 0−1 長崎総科大附(長崎)
 得点者:(長)千葉翼

ボールの争奪戦など終始激しい攻防が見られた試合は長崎総科大附に軍配。浜松開誠館の初出場初勝利はならなかった。

慌てず騒がずゴールにカギをかける
 序盤から互いに局面で激しいボールの争奪戦を繰り広げた。その中でも浜松開誠館はスペースをうまく突き、選手個々の技術を発揮して相手陣内に進入。前半から何度か相手ゴールに迫った。しかし、鍛え上げられた長崎総科大附の守備陣は慌てず騒がず、そしてゴールも割らせない。機を見て攻めに出てペースを完全に渡すこともなかった。スコアレスで前半を終えて迎えた後半、先制したのは、相手の攻撃をやり過ごした長崎総科大附のほうだった。68分、湘南ベルマーレ内定の鈴木冬一のパスを受けた古堅詩音のクロスに千葉翼が頭を合わせてネットを揺らす。その後も長崎総科大附は自陣のゴールにカギをかけ続け、1−0で試合終了。初出場の浜松開誠館は初戦で敗れ、3年連続出場の長崎総科大附が3回戦進出を決めた。


<浜松開誠館>創部14年で初出場 “破天荒”を掲げて突き破った“中部の壁”【選手権出場校紹介】
安藤隆人  世界各国を放浪するサッカージャーナリスト。巷ではユース教授と呼ばれる。

『破天荒』
 この3文字が浜松開誠館のチームTシャツの背中に大きく刻まれている。破天荒とは『今まで誰もなし得なかったことをすること』という意味を持つ。
 かつて地元の名門・清水商(現・清水桜が丘)のエースストライカーとして選手権優勝を経験し、清水エスパルスでプレーをしていた青嶋文明監督が、2002年にサッカー部を創部した浜松開誠館中学校の監督に就任。第1期生が中3となった2004年に全国中学サッカー大会で優勝を果たす(ルーテル学院中学校と両校優勝)。そのままカテゴリーを上げる形で、2005年に高校にもサッカー部を創部し、高等部の監督に就任した。ゼロからのスタートの中で、青嶋監督がよく口にしていたのがこの言葉だった。
 静岡県のサッカーシーンを紐解くと、“中部王国”の歴史がずっと続いていた。静岡県は浜松市を中心とした西部、静岡市を中心とした中部、沼津市や三島市を中心とした東部の3地区で形成されている。栄華を誇った藤枝東、清水桜が丘、静岡学園、東海大翔洋(前・東海大一)、清水東の5校に加え、選手権出場校で言えば藤枝明誠、常葉学園橘もすべて中部の高校だ。東部は飛龍(前・沼津学園)が実力校だが、一度も全国大会出場が無く、西部はかつて浜名が中部勢に食い込んでいたが、近年は県内で苦戦を強いられている。磐田東も一度インターハイに出場をしたが、厳しい戦いが続いている。

 この図式の中で、西部でゼロからのスタートを切った浜松開誠館が食い込んで行くのは至難の業だった。その静岡の歴史、縮図を十分に理解していたからこそ、青嶋監督は『破天荒』という言葉を口にし続けた。
「最初は勢いもあったけど、やればやるほど、その難しさを身にしみて感じるようになった」

 中等部はすぐに結果が出た。その勢いのままに高校での上昇気流を目論みたが、静岡の壁はやはり分厚かった。何度も何度も中部の壁に跳ね返され、特に準決勝は大きな壁となっていた。
 それでも竹内涼、松原后(ともに清水エスパルス)、土居柊太(FC町田ゼルビア)、青島拓馬(ブラウブリッツ秋田)とJリーガーを世に輩出し、プリンスリーグ東海では優勝争いを演じるなど、力は着々とつけてきた。
 そして、2015年のインターハイ予選準決勝で飛龍を2−0で下して、ついに初の決勝進出を果たしたが、決勝では清水桜が丘に0−2で敗戦。翌年のインターハイ予選でも2年連続で決勝進出を果たすが、ここでも静岡学園に0−1で敗れた。さらに選手権予選で初の決勝進出を果たすが、藤枝明誠を相手に2−3の逆転負けを喫した。
 藤枝明誠戦の敗戦後、青嶋監督は「…まだまだ…なんですかね。万全の準備をしてきたつもりが、どこか浮ついていた気持ちがあったのかもしれない。もっと僕が成長をしないといけないと思いました」とショックを隠せなかった。だが、すぐに「伝統を積み重ねる。選手たちの想いを引き継いで、積み重ねて行きたい」と再びその情熱を燃やして、選手達と真正面から向き合った。
 何度跳ね返えされても、起き上がって挑み続ける。その姿はまさに『破天荒』を実現させるための『本気の姿』だった。

 そして、4度目の決勝進出となった今回、ついに分厚い壁を突き破った。決勝進出が決まったとき、「2年前の悔しさは忘れては居ない。あの時は一気に注目をされて、どこかふわふわした状態で試合に入ってしまった。今回はそれを経験しているからこそ、万全の状態で挑みたい。あくまで僕らは泥臭く戦って、勝ち切ることを大切にしているので」と、青嶋監督は落ち着いた表情でこう語っていた。
 悔しい想いを何度味わっても、それをチームの力に変えて行ったからこそ、静岡学園との決勝では2点を先行すると、その後はCB山田梨功を中心に静岡学園の反撃を1点に抑えて、2−1の勝利。創部14年目にして初の全国大会出場を掴み獲り、西部勢としては浜名以来、実に41年ぶりの選手権出場という、『破天荒』を現実のものにした。
 勝利の瞬間、青嶋監督は喜び爆発させ、14年分の涙を流した。だが、『破天荒』はこれで完結した訳ではない。かつて自分が選手権の頂点からの景色を見たように、『サッカー王国静岡』の復活も『破天荒』の中に入っている。
「やって来たことは変わらない。これからも泥臭く、1つずつ積み重ねて行くだけ」(青嶋監督)。まさにこれから新たな歴史がスタートするにすぎない。まずは初戦で強豪・長崎総合科学大附属を相手に最善の準備をして臨み、『破天荒第二章』の1ページ目を開く。
取材・文=安藤隆人